10. 短時間で心臓が若返る!?ダラダラ歩きを卒業して「高強度インターバル」で持久力を劇的に変える方法

ウォーク・ラン系

参考文献:Wisløff et al., Superior Cardiovascular Effect of Aerobic Interval Training Versus Moderate Continuous Training in Heart Failure Patients, Circulation, 115, 3086-3094, 2007.

健康のために毎日30分のウォーキングやジョギングを欠かさない。そんな素晴らしい習慣を持っている方にこそ、一度振り返ってほしいことがあります。最近、体力(持久力)の向上を実感できていますか。「毎日続けているのに、階段で息が切れるのは変わらない」「一定のペースで走るだけでは物足りなくなってきた」と感じることはないでしょうか。実は、心臓のポンプ機能を高め、細胞レベルで体を若返らせるには、ただ長時間動くよりも「運動の強弱」をつけることが重要であるということが最新の科学で明らかになっています。

この論文の結論を一言でいうと、「短時間でも高い負荷をかける『インターバルトレーニング』は、心臓の形や機能を劇的に改善し、一般的な有酸素運動よりもはるかに高い運動能力向上をもたらす」ということです。

研究チームは、平均年齢約75歳の心不全(心筋梗塞後)患者27名を対象に、12週間にわたる実験を行いました。参加者は、心拍数を最大近くまで上げる「高強度エアロビック・インターバル・トレーニング(AIT)」を行うグループ、一定のペースで歩く「中強度持続的トレーニング(MCT)」を行うグループ、そして何もしないグループに分けられました。その結果、インターバル群では持久力の指標であるVO2peak(※1)が46%も向上したのに対し、一定ペースのグループでは14%の向上にとどまりました。さらに驚くべきことに、インターバル群では心臓の左室リモデル(※2 心臓の形が悪くなる現象)が逆転し、心臓のポンプ機能(駆出率)が35%も改善したのです。血管の広がりやすさを示す血管内皮機能(※3)も、インターバル群でより大きな改善が見られました。ただし、この研究は健康な若年男性を対象とした短期的な反応を調べたものであり、高齢者や怪我のある方、あるいは長期的な筋力向上(最大挙上重量の増加)については異なる結果が出る可能性があるため、すべての人にそのまま当てはまるとは限りません。

※1 VO2peak:運動中に体が取り込める酸素の最大量(持久力の指標) ※2 左室リモデル:心臓の壁が厚くなったり、部屋が広がったりしてポンプ機能が低下する変化 ※3 管内皮機能(FMD):血管が血流に合わせて柔軟に広がる能力。動脈硬化の指標。

重要ポイント

1. 心臓という「エンジン」のサイズと効率を根本から作り替える

一般的なウォーキングが車の「燃費改善」だとすれば、高強度のインターバルは「エンジンの排気量を上げ、さらにターボチャージャーを付ける」ようなものです。研究では、インターバル運動によって心臓の部屋の大きさが適正化され、1回の拍動で送り出せる血液の量(一回拍出量)が大幅に増えることが分かりました。これにより、日常生活やスポーツシーンで、より少ない努力感で大きなパワーを発揮できるようになります。

2. 細胞内の「発電所」が劇的に増設される

持久力が上がる理由は心臓だけではありません。インターバルトレーニングは、筋肉の細胞内にあるミトコンドリア(エネルギーを作る発電所)を増やすスイッチである「PGC-1α」を強力にオンにします。さらに、筋肉を動かすためのカルシウムの処理能力も高まるため、疲れにくい「タフな筋肉」へと細胞レベルでアップグレードされるのです

※4 PGC-1α:細胞内でエネルギーを作る「ミトコンドリア」を増やすためのスイッチ役。

実践的なアドバイス

この研究で採用された「ノルウェー式インターバル」を参考に、日々のランニングやサイクリングに取り入れてみましょう。やり方はシンプルです。「4分間のややきつい運動」と「3分間の軽い運動(アクティブレスト)」を4回繰り返すだけです。 4分間の運動強度の目安は、息が上がって「これ以上は会話を続けるのが難しい」と感じるレベル(心拍数が最大値の90〜95%程度)を目指します。「やりすぎないための注意点」として、このトレーニングは体への負荷が非常に高いため、まずは週に1〜2回から始め、決して毎日行わないようにしてください。休息もトレーニングの一部です。また、心臓への負担が大きいため、もし胸の痛みや違和感を感じた場合はすぐに中止し、医師の診断を受けてください。既往症がある方や体調に不安がある方は、無理をせず、必ず専門家の指導のもとで強度を調整してください。

この研究は、高齢の心疾患患者であっても高強度の運動が安全かつ極めて有効であることを証明した画期的なものです。しかし、対象が「安定した状態の患者」に限られており、サンプル数も27名と少ないため、安全性について最終的な結論を出すにはさらなる大規模調査が必要です。実生活で応用する際の最大の「落とし穴」は、自分の限界を主観だけで判断してしまうことです。この研究では厳密に心拍数をモニターして「90〜95%」という高い負荷を維持しましたが、無理をしすぎて怪我をしたりするリスクがあります。ご自分で試す場合には、息が上がるくらいの早歩きでも試してみる価値は十分にあると思います。何より苦しいを続けるのは難しいので、ご自身の体調を踏まえて楽しい、気持ちよい、心地よいを基準に考えてみてください。

「もう若くないから」「心臓に負担をかけたくないから」と、負荷を下げすぎてはいませんか。科学は、適切な強度こそが健康と若さを保つ鍵であることを教えてくれています。いつもの運動に少しだけ「本気」のインターバルを加えることで、あなたの心臓と筋肉は明日から新しく生まれ変わり始めます。一歩先の自分を目指して、さっそく明日のトレーニングで「4分間の挑戦」を取り入れてみましょう!