12. 運動で「ウェルビーイング(幸せ)」を長続きさせるコツ:運動の種類よりも大切なのは「仲間の存在」でした!

環境・社会

参考文献:McAuley et al., Social Relations, Physical Activity, and Well-Being in Older Adults, Preventive Medicine, 31(5), 608-617, 2000.

毎日のランニングやジムでの筋トレ、皆さんはどんな気持ちで取り組んでいますか?「健康のため」「体型を維持するため」とストイックに励む一方で、ふとした瞬間に「一人で黙々と続けるのは、時々寂しいな」「今日はなんとなくやる気が出ないな」と感じてしまうことはありませんか?せっかく体に良いことをしているのに、心が置いてけぼりになってしまってはもったいないですよね。実は、運動が私たちの心をどれだけポジティブにしてくれるかは、運動の内容そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に「周囲との関わり」が鍵を握っていることが最新の科学で明らかになっています。

この論文の結論を一言でいうと、「有酸素運動でもストレッチでも、運動を習慣化すれば幸福感は高まるが、その効果を支えるのは運動の頻度と仲間からのサポートである」ということです。

研究チームは、これまで運動習慣がなかった60歳から75歳の男女174名を対象に、12ヶ月間にわたる大規模な調査を行いました。参加者は、ウォーキングを中心とした「有酸素運動グループ」と、柔軟性や軽い筋力トレーニングを行う「ストレッチ・トニンググループ」の2つにランダムに分けられました。研究では、6ヶ月間の運動プログラム期間中と、その終了からさらに6ヶ月後の合計12ヶ月間にわたり、参加者の「主観的ウェルビーイング(SWB)※1」を測定しました。具体的には、「幸福感」「人生への満足度」「孤独感」という3つの指標で心の状態を評価しています。その結果、以下のことが判明しました。

• どちらのグループでも、6ヶ月間のプログラム終了時には「幸福感」と「人生への満足度」が有意に向上し、「孤独感」が減少しました。

• しかし、プログラムが終了して専門家の指導やグループ活動がなくなると、これらの改善効果は低下し、元のレベルに戻ってしまう傾向が見られました。

• 心の健康を維持するための最大の予測因子は、運動の「頻度」と、運動グループ内で得られた「社会的支援」でした。

※1:主観的ウェルビーイング(Subjective Well-Being)とは、個人が自分の人生をどのように評価し、どの程度ポジティブな感情を抱いているかを指す心理学的な指標です。

重要ポイント

1. 「何をやるか」よりも「どれだけ楽しく続けられるか」が重要

多くの人が「痩せるには有酸素運動」「筋肉をつけるには筋トレ」と、運動の種類や強度にこだわります。しかし、心の健康という観点で見れば、激しいウォーキングも、ゆったりとしたストレッチも、得られる幸福感に大きな差はありませんでした。運動は、例えるなら「心のバッテリー」を充電する行為です。有酸素運動という急速充電でも、ストレッチというゆっくりした充電でも、大切なのはバッテリーが空になる前に定期的に充電(運動)を行う頻度なのです。

2. 「仲間」は幸福感を維持する最強のセーフティネット

運動によって得られた満足感は、運動をやめると時間とともに薄れてしまいます。しかし、運動を通じて「仲間から励まされた」「自分を認めてくれる場所がある」と感じていた人は、運動頻度が減った時期でも、人生の満足度が下がりにくいことが分かりました。仲間との絆は、幸福感がこぼれ落ちるのを防ぐ「受け皿」のような役割を果たしてくれます。

実践的なアドバイス

研究の結果を活かして、明日からあなたのトレーニングに「社会的要素」をプラスしてみましょう。

「運動コミュニティ」に顔を出してみる:一人で走るのも素晴らしいですが、週に一度はランニングクラブやフィットネススタジオのクラス、地域のスポーツサークルに参加してみましょう。仲間と「お疲れ様」と声を掛け合うだけで、運動による心理的メリットは最大化されます。SNSでトレーニング記録を共有し、同じ目標を持つ仲間と「いいね」やコメントを送り合うだけでも、この研究で示された「社会的サポート」に近い効果が期待できます。やりすぎないための注意点として、他人と自分を過度に比較してストレスを感じては本末転倒です。あくまで「自分が心地よいと感じる交流」を優先し、体調が優れない時や既往症がある場合は、無理にグループのペースに合わせず、自分の体を一番に労わってあげてください。

この研究は、運動の身体的な側面だけでなく「環境」が心に与える影響を浮き彫りにした点で非常に価値があります。一方で、対象者の多くが白人女性であったため、文化的な背景や性別によるコミュニケーションスタイルの違いが結果に影響している可能性は否定できません。実生活で応用する際の「落とし穴」は、グループの存在が逆に「義務感」になってしまうことです。仲間との関わりが「強制」に感じられるようになると、本来の目的であるウェルビーイングを損なう恐れがあります。あくまで、自分が自発的に参加したいと思えるコミュニティを見つけることが大切です。

運動は、体を変えるだけでなく、私たちの心に「つながり」という最高のギフトを届けてくれます。明日からは、タイムや回数といった数字だけでなく、一緒に笑い合える仲間の顔を思い浮かべてみてください。その一歩が、あなたの人生をより豊かで満足度の高いものに変えてくれるはずです。幸せへの道は、誰かと一緒に歩むことで、より確かなものになります。さあ、明日は誰を誘って運動に出かけますか?