参考文献:Houmard et al., Effect of the volume and intensity of exercise training on insulin sensitivit, J. Appl. Physiol., 96(1), 101–106, 2004.
「最近、お腹周りが気になってきた」「健康診断で血糖値が少し高めと言われた」……そんな悩みをお持ちではありませんか?効率よく健康になりたいと願う多くの運動愛好家にとって、「どれくらい激しい運動を、どれだけの時間やればいいのか」は永遠のテーマですよね。「もっと息が切れるほど追い込まないと、代謝は改善しないのではないか」という不安を感じている方も多いはずです。
この研究の結論を一言でいうと、「インスリン感受性を改善するには、運動の激しさ(強度)よりも、週ごとの合計運動時間を確保することの方が重要である」というものです。
研究チームは、運動不足で肥満気味の男女154名を対象に、6ヶ月間にわたる実験を行いました。参加者は以下の4つのグループにランダムに分けられました。
1. 運動をしないグループ(対照群)
2. 低用量・中強度グループ(週に約19kmのウォーキング、合計約170分/週)
3. 低用量・高強度グループ(週に約19kmのジョギング、合計約115分/週)
4. 高用量・高強度グループ(週に約32kmのジョギング、合計約170分/週)
その結果、週に約170分の運動を行ったグループ(2と4)は、運動強度が異なっていてもインスリン感受性が約85%も向上しました。一方で、強度は高いものの時間が短かったグループ(3:約115分)の改善率は約40%にとどまったのです。
(※注 インスリン感受性(SI):血液中の糖分を細胞内に取り込む際の効率の良さのこと。この数値が高いほど、血糖値が安定しやすく、生活習慣病のリスクが下がります。 最大酸素摂取量(V̇O2 peak):持久力の指標であり、体が1分間に取り込める酸素の最大量のこと。)
この研究は、主に「肥満気味で、これまで運動習慣がなかった中高年」を対象としています。そのため、すでにハードなトレーニングを積んでいるアスリートや、若年層のすべての人にそのまま当てはまるとは限りません。
ポイント整理
1. 「運動の質(激しさ)」よりも「運動の量(時間)」が重要 ハアハアと息が切れるような激しいジョギングを短時間行うよりも、少し息が弾む程度のウォーキングを長く続ける方が、血糖値をコントロールする能力(インスリン感受性)を向上させるには効果的でした。これは、たとえるなら「強力な洗剤で一瞬だけ掃除する」よりも「普通の洗剤で隅々まで時間をかけて掃除する」方が、部屋(体)がきれいになるようなものです。
2. 「座りっぱなし」が何よりの敵 運動を全くしなかったグループでは、わずか6ヶ月でインスリン感受性が悪化しました。定期的な運動は、加齢や不摂生によって衰えていく代謝能力にブレーキをかけ、さらには大幅にアップデートしてくれる最強の対抗手段なのです。
実践アドバイス
このエビデンスを日々の生活に活かすなら、「週に合計170分」の運動時間を確保することを目指しましょう。
具体的には、1日約25分のウォーキングを毎日続けるか、1回約45分の運動を週4回行う計算になります。ジムで激しく追い込めない日があっても、遠回りの散歩を選んで「活動時間」を稼ぐだけで、あなたの体の代謝システムは着実に改善していきます。ただし、やりすぎには注意が必要です。急に運動量を増やすと膝や腰などの関節を痛める可能性があるため、まずは今の活動時間にプラス10分することから始め、数ヶ月かけて目標の170分に近づけていきましょう。 もし体調不良や既往症がある場合は、決して無理をせず、医師の指導に従ってください。
この研究は「運動時間」の重要性を明確に示しましたが、参加者の継続率(アドヒアランス)を見ると、運動量が多いグループほど脱落者が多い傾向にありました。実生活における「落とし穴」は、理論上の最適解(長時間運動)を追い求めるあまり、忙しい毎日の中でスケジュールが破綻し、運動自体を辞めてしまうことです。
「もっと激しくやらなきゃ」という強迫観念はもう捨てて大丈夫です。大切なのは、あなたのペースで「体を動かしている時間」を積み上げること。その1分1分の積み重ねが、将来の健康な体という大きな貯金になっていきます。明日から、少しだけ長く歩いてみませんか?

