参考文献:Runar Jakobsen Unhjem, Changes in running economy and attainable maximal oxygen consumption in response to prolonged running: The impact of training status, Scandinavian Journal of Medicine & Science In Sports, 34, e14637, 2024.
ランニングやスポーツを続けていて、同じペースで走っているはずなのに、後半になると心拍数が上がり、息が切れてしまう経験はありませんか? 走り出しは軽快だったのに、30分、1時間と経つにつれて、脚が重くなり、体感温度も上がって、まるで別の運動をしているかのように感じることがありますよね。実はこの「運動中の体力の目減り」には、科学的な理由があるのです。最新の研究は、トレーニングを積んだ人とそうでない人の間で、運動中に体の中で何が起きているのかを解き明かしてくれました。
この論文の結論を一言でいうと、継続的なトレーニングは、長時間の運動中に体力が低下するのを防ぐ「生理的なレジリエンス(耐久性)」を向上させるということです。
研究では、週に平均約70km走る「トレーニングを積んだランナー」10名と、定期的に運動はしているが持久系トレーニングは週2回以下の「活動的な大人」10名を対象に調査が行われました。 全員が自分の最大能力の70%という同じ相対的な強度で1時間のランニングを行い、その前後で体力がどう変化するかを測定したのです。その結果、あまり走り込んでいないグループは、1時間のランニング中に持久力の指標が約5%も低下し、走りの効率も大幅に悪化したことが分かりました。 一方で、トレーニングを積んだランナーたちは、1時間走った後でもこれらの数値がほとんど変化せず、高い能力を維持していました。 ただし、この研究は比較的小規模なグループを対象としたものであり、すべての人に当てはまるとは限らないという点には注意が必要です。
重要ポイント
1. 「燃費」の悪化を食い止める力
運動を続けると、体は徐々に「燃費」が悪くなります。 あまりトレーニングをしていない人の場合、1時間走る間に必要な酸素の量が増え、エネルギー消費の効率が著しく低下してしまいます。 これは、最初はスムーズに走っていた車が、エンジンが熱くなるにつれてガソリンを余計に食うようになるようなものです。
2. 「最大能力の天井」を維持する
驚くべきことに、走り込んでいない人は、運動をしている最中に「今の自分が出せる全力量」そのものが減ってしまいます。 運動前に測った限界値が、1時間走った後には下がってしまうのです。 対して、トレーニングを積んだランナーは、長時間走ってもエネルギー消費の効率が悪化しにくく、最大能力も維持しやすいことが明らかになりました。
3. 心拍数の上昇は体力の悲鳴
運動強度が一定でも時間が経つにつれて心拍数が上がっていく現象は、あまりトレーニングをしていない人でより顕著に現れました。 これは、体内のエネルギー効率が落ち、最大能力も下がっているために、体にとっての相対的な負担がどんどん増しているサインなのです。
実践的なアドバイス
まず、長い距離や時間を走るトレーニングを、無理のない範囲で習慣化しましょう。 短時間の高強度な運動だけでなく、低〜中強度の運動を長く続けることで、体力が削られにくい「タフな体」が作られます。 週に数回のジョギングから始め、少しずつ走行距離や時間を延ばしていくことで、体力の低下を抑える「疲れにくい体」を作ることができます。
また、運動中の心拍数をチェックすることも有効です。同じペースで走っていて心拍数が急激に上がってくるようなら、それは今のあなたの「耐久性」の限界かもしれません。その日は無理をせず、徐々にその距離に体を慣らしていきましょう。ただし、体調が優れない時や、持病がある場合は決して無理をせず、自分の体と対話しながら進めてください。
やりすぎないための注意点として、走行距離を増やす際は、前週の10%程度までの増加に留める「10%ルール」のような規定を設けて、急激な負荷の増加による怪我を防ぎましょう。
この研究は、持久力の指標そのものだけでなく、それが「いかに維持されるか」という耐久性に着目した点で非常に価値があります。 ただし、実験では強度が固定されていましたが、実際には代謝の個人差があるため、全員が全く同じ生理的ストレスを受けていたとは言い切れない側面もあります。 実生活での「落とし穴」としては、平坦なトレッドミルでの1時間走と違い、実際の屋外走行では坂道や路面状況の変化、筋肉へのダメージがより大きくなるため、研究結果以上に体力が消耗しやすいことを念頭に置くべきでしょう。
持久力とは、単に「速く走れる能力」だけではありません。運動の後半でもその能力を「維持し続ける力」こそが、真のタフさの指標となります。日々の積み重ねは、あなたの体を裏切りません。一歩一歩の積み重ねが、あなたを「最後まで失速しないランナー」へと変えてくれるはずです。明日からのトレーニングが、より充実したものになりますように!
